大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

宇都宮家庭裁判所 昭和57年(少ハ)2号 決定

少年 H・S子(昭四一・四・一四生)

主文

少年を中等少年院に戻して収容する

理由

(申請の理由)

本件記録中の関東地方更生保護委員会作成昭和五七年二月二五日付戻し収容申請書「申請の理由」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

(当裁判所の判断)

少年は、昭和五六年七月九日、当裁判所において、強姦、毒物及び劇物取締法違反の各罪により初等少年院送致の決定を受け、同月一六日青葉女子学園に入院し、同年一二月二四日、別紙記載の特別遵守事項を定められて同所を仮退院し、以後は宇都宮保護観察所の保護観察に付されているものであるところ、当審判廷における少年の供述、本件事件記録及び少年調査記録によれば、少年は、(1)「申請の理由」第一項1記載のとおり、同年一二月三一日から翌昭和五七年の一月一〇日まで及び同月二〇日ころから翌二月の二日まで並びに同月五日ころから同月一八日までの間、いずれも数日おきに帰宅して寝泊まりしたり、母K・M子の勤務先に架電したりはしたものの、知人宅等に無断で外泊してほとんど表記住所地に居住せず、(2)同項2記載のとおり、同年一月一一日に三学期が始まつて以来、同年二月一八日に引致状によつて引致されるまでの間、六日間ほど登校したのみで、知人等と徒遊するなどして怠学を続け、(3)同項3記載のとおり、下級生の一部の者が少年を番長格の先輩としてたてまつつていることに乗じ、同年一月一三日、同級生A子が「つつぱり」指向を有する子として同伴した一級下のB子に対し、衣服を万引のうえ持参するようそそのかし、命じ、翌一四日ころ、更に同女に対し、現金二、〇〇〇円の提供を命じて、同日これを受領し、同月一五日には同女及び同じく下級生のC子に対し、商品を万引のうえ持参するようそそのかし、命じ、同月二〇日には、同女ら及びD子に対して、こたつカバー、カーテン等の製作提供を命じ、(4)同項4記載のとおり、その間、担当保護司○○○○が足しげく少年方を訪問するなどして指導したにも拘らず、一向にその行状を改めることなくその指導に従わなかつたこと、をそれぞれ認めることができる。してみると、少年の上記(1)ないし(4)の各行為は、前記特別遵守事項及び法定遵守事項に違反しており、少年はこれらの遵守すべき事項を守らなかつたことが明らかである。

そこで進んで収容の必要性、相当性について検討するに、少年は、当審判の後半において、ようやく自己の置かれた立場を深刻に受けとめて、これまでの行状の重大性についてまじめに反省し始めたことがうかがわれるけれども、現時点においては、もはや少年の受入れ先である宇都宮市立○○中学校が少年の受入れについて極めて消極的となつているところ、少年には、本年二月二日に宇都宮保護観察所において保護観察官から面接調査を受け、登校すること等を誓つたにも拘らず、翌日以降も全く登校しなかつたいきさつもあるのであつて、他方、少年の保護者である母K・M子や前記担当保護司は、少年が仮退院して以来、その指導監督について精一杯の努力は重ねており、少年の年齢、資質、交友関係等に照らすと、少年の保護環境を直ちに今以上に強力有効なものとする方策もみつからないのであるから、これらの事情や、少年の非行歴、仮退院中の行状の内容その他諸般の事情を併せ考えると、少年を現状のまま放置するときは、重ねて非行を反覆するおそれが顕著であるといわざるをえず、この際、少年を施設に戻して収容し、改めて内省を深めさせるとともに、専門家による再度の指導のもとに矯正教育の効果を期待することが必要かつ相当であると考える。

なお、前決定が一般短期の処遇勧告付であつたこと、少年については既にそれなりの収容の効果もみられること、少年は今回の戻し収容により自己の置かれた立場を相当厳しく認識し、まじめに反省していること等を考慮して、少年については六箇月程度で仮退院とし、今後の職業選択について特に十分な指導と助力をされることを勧告する。

よつて、犯罪者予防更生法四三条一項、少年審判規則五五条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 増田芳子)

別紙

特別遵守事項

一 昭和五六年一二月二五日までに宇都宮市○○×丁目×-××(母)K・M子のもとに帰住すること。

二 昭和五六年一二月二五日までに宇都宮保護観察所に出頭すること。

三 シンナー等の吸引をしないこと。

四 みだりに異性とつき合わないこと。

五 進んで保護司を訪ね、その指導に従うこと。

以上

昭和57年少ハ第2号〈省略〉

〔参考〕 戻し収容申請書の申請の理由

少年は、東北地方更生保護委員会の決定により、昭和五六年一二月二四日青葉女子学園から仮退院を許され、表記住居の母のもとに帰住し、以来、宇都宮保護観察所の保護観察下にあるところ、同五七年二月一八日同保護観察所に引致され、同日、当委員会から「戻し収容の申請について審理を開始する」旨の決定を受け、同日以降、留置期間を同月二七日までとして現在宇都宮少年鑑別所に留置されているものである。同保護観察所長からの戻し収容申出書及び同申出書添付の書類を精査するに、左記「一」記載のとおり少年に遵守すべき事項を遵守しない事実が認められるうえ、同「二」記載のとおり、すでに保護観察による指導監督及び補導援護の方法をもつてしては、その改善更生を図ることは困難な状況に至つているものと認めざるを得ないので、犯罪者予防更生法第四三条第一項の規定により、本申請を行うものである。

一 遵守事項違反の事実

少年は、

1 昭和五六年一二月三一日初詣に出掛けたまま帰宅せず、以降同五七年一月一〇日までの間、宇都宮市内に居住し、かねてから顔見知りであつた「E(男性)」宅に止宿し、「E」の女友達及び少年の男友達である「F」とドライブなどに興じていたのをはじめ、同年一月二〇日ころから同年二月二日までの間、及び同年二月五日ころから同月一八日までの間それぞれ、かねてからの遊び友達や先輩などのもとに止宿しては徒遊と無断外泊を続け、

2 同五七年一月一一日宇都宮市立○○中学校の始業式に出席してから同月一二日、一四日、一六日、一九日及び二〇日の六日間登校したほかは怠学を続け、

3 同年一月一三日、級友が少年宅に同伴した下級生のB子に対し、現金二、〇〇〇円の提供と洋服の盗みを指示したのをはじめ、同月一五日右B子及び同じく下級生のC子に対し、スカート、ズボン、ブラウス及び靴の提供を命じ、同月一九日にはB子、C子が宇都宮市内のスーパー「○○」においてスカートやチョッキ等を万引するのを座視し、更に同月二〇日、B子、C子、D子に対しこたつカバー、カーテン、ベットカバーなどの製作提供を命じるなど、下級生に対して多大な悪影響を与え、

4 少年の行状を心配した、クラス担任教師による同年一月一九日の面接指導及び同年二月二日の主任官の調査面接・指導並びに担当保護司の家庭訪問を混えた指導にもかかわらず、右1・2記載のとおり無断外泊・怠学を続けていた

ものである。

前記1は、少年が仮退院に際して遵守することを誓約した犯罪者予防更生法第三四条第二項所定の遵守事項(以下「一般遵守事項」という。)第一号前段及び第四号に、

前記2は、一般遵守事項第一号後段に、

前記3は、一般遵守事項第二号に、

前記4は、同法第三一条第三項の規定により東北地方更生保護委員会が定めた遵守事項第五号「進んで保護司を訪ね、その指導に従うこと」後段に

それぞれ違反していることは明らかである。

二 戻し収容を相当とする理由

1 少年は、仮退院の翌々日、担当保護司及び母と共に宇都宮市立○○中学校を訪れ、同校校長、教頭、学年主任教師、担任教師、生活指導教師を交えて話合いをなしたところ、昭和五七年一月一一日から始まる三学期での努力を約し、激励を受け、その後母のもとで冬休みを過していたものであるが、

2 前記「一」記載のとおり、同五六年大晦日、初詣と称して外出し、宇都宮市内において「E」や「F」に出合つたことから無断外泊を続け、同五七年一月一〇日から一〇日間ほど通学のため自宅に戻つたものの永続きせず、怠学と外泊を繰り返すようになつた。

しかもその一〇日間に、下級生数人に対して「つつぱり方」の実地指導と称して金員を要求したり物品の提供を強要したりしていたため、少年及び下級生の将来を案じた学校当局が宇都宮保護観察所に善処方を要望し、同保護観察所においては、少年を呼び出し、自己の行動に対する反省及び通学への動機付けを強力に指導し、それを受けて担当保護司も従前以上の働きかけを実施したが、本人の内省はその場かぎりに終り、翌日からは前と同じ怠学が、更に間もなく無断外泊がそれぞれ再開されたもので、このような一連の行動からは、少年の自己の立場への十分な理解と反省を汲み取ることが出来ないのみならず、長期間の無断外泊や一部下級生への影響力の行使にみられるように、少年院入院前より更に一歩進んだ非行の様相が認められる。

3 他方、保護環境についてみるに、幼少時に別れた実父とは、時たま交渉があるもようなるも、少年の供述でみるかぎり実父は少年に対しあまり良い影響は及ぼしていないようであり、実母は、少年のために転職したことにも窺えるように、少年の身を案じ少年の立ち直りを期待してはいるが、生活のため働き続けなければならない立場では、十分に少年を監督出来る状態には程遠く、かつ、少年の聞きわけのなさに、採るべき方法を考えあぐねており、収容保護もやむを得ぬとの心境に至つている。

4 更に、学校側は、前述のごとき問題行動を重ねた少年を再び受け入れることで、他の生徒が傷つくことを恐れており、現在では、宇都宮市立○○中学校への復学の道は断れている状況にある。

5 以上、総合的に判断すると、少年が心底再出発を志したとしても、修学の場の確保が早急には整わずその調整期間中に少年の決意が鈍ぶる可能性も大きく、その際は今まで以上に少年自身が傷つく方向をたどる危険性が高い。

よつて、この際、少年を少年院に戻して収容することにより、遅滞なく修学の場を与えるとともに、矯正教育によつてこれまでの生活態度を反省させ、更生への足掛りを与えることが適切な措置であると思科する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例